
川崎市獣医師会
本記事は、公益社団法人川崎市獣医師会に所属する獣医師の専門的な監修のもと執筆しています。
なぜブドウが危険なのか

ブドウやレーズンは、人間にとってはビタミンやポリフェノールを多く含む健康食品ですが、犬や猫にとっては急性腎不全を引き起こす可能性がある非常に危険な食材です。原因となる有害成分は特定されていませんが、摂取後に腎臓の糸球体や尿細管が障害され、老廃物を体外へ排出できなくなります。その結果、体内のバランスが急速に崩れ、命に関わる状態に陥ります。特に恐ろしいのは、犬では少量でも重篤な腎障害が起きるケースがあることです。世界中で同様の報告があり、日本国内の動物病院でも毎年複数例が診断されています。
中毒の症状と経過
摂取から6〜24時間以内に、以下の症状が現れることが多く、時間が経つほど重症化します。
よくみられる症状
- 繰り返しの嘔吐や下痢
- 元気消失・沈鬱(元気がなく、動きが鈍くなる)
- 食欲不振
- 腹部の痛み(背中を丸める、触られるのを嫌がる)
- 脱水症状(口や鼻の乾燥、皮膚の張りが低下)
- 尿量の減少または無尿
- 呼吸の異常(速く浅い呼吸、息苦しさ)
急性腎不全が進行すると、血液中に老廃物が蓄積し、尿毒症を発症します。これにより、けいれん、意識障害、昏睡といった重篤な症状が現れ、死亡に至る危険があります。
危険な量は存在しない
ブドウの中毒量は体重1kgあたり数gで発症する場合もあれば、それ以下で命に関わることもあります。安全な量は存在しないと考えるべきです。加えて、ブドウの品種や新鮮さ、加工の有無に関わらず毒性は消えません。
生のブドウ、干しブドウ(レーズン)、ブドウジュース、レーズン入りパン・ケーキ・クッキーなど、すべて危険です。
誤食してしまったら
ブドウやレーズンを口にしたことに気づいたら、症状がなくても直ちに動物病院に連絡してください。腎障害は症状が出てからでは手遅れになることもあり、摂取直後に治療を始めることが予後を大きく左右します。
病院に伝えるべき情報
1.摂取した食品(生ブドウ、レーズン、加工品)
2.食べた量と大きさ
3.摂取時間
4.ペットの体重、年齢、既往症
夜間や休日の緊急時は「川崎市獣医師会 夜間動物病院」へ

診療時間外や休日にブドウの誤食が発覚した場合は、迷わず川崎市獣医師会が運営する「夜間動物病院」へご連絡・ご相談ください。経験豊富な獣医師が電話でのアドバイスや緊急診療を行います。
川崎市獣医師会 夜間動物病院
受付時間:午後8時~深夜0時(最終受付 23時30分)
年中無休
実際にあった症例
体重8kgの犬が干しブドウ入りのパンを半分食べた例
摂取から4時間後に受診、吐かせる処置を行い入院点滴治療。幸い腎障害は回避。
体重5kgの犬がブドウ3粒を食べた例
翌日から元気消失、尿がほとんど出ず受診。急性腎不全と診断され集中治療を行ったが、回復せず。これらはすべて日本国内で報告されており、「少量なら安全」という考えが危険であることを示しています。
予防のための生活習慣
- 食卓やキッチンにブドウやレーズンを置かない
- ゴミ箱はフタ付きにし、食べ残しや皮が食べられないようにする
- 小さな子どもや来客にも、ブドウの危険性を周知する
- ペットの口に入る食品は必ず安全性を確認する
まとめ
ブドウやレーズンは、犬や猫にとって極めて危険な食べ物です。原因物質が解明されていない現時点では、絶対に与えないことが唯一の予防策です。「大丈夫だろう」という油断が命を奪うことにならないよう、日々の生活の中で十分な注意を払ってください。川崎市獣医師会は、飼い主の皆さまが安心してペットと暮らせるよう、正しい知識と緊急時の対応をお伝えしていきます。