動物園の枠を越えて、“いのちの学び舎”へ―夢見ヶ崎動物公園と新しい動物園のかたち

夢見ヶ崎動物公園インタビュー

川崎市幸区の豊かな自然に囲まれた「夢見ヶ崎動物公園」。ここではレッサーパンダやペンギンなどの動物だけでなく、昆虫や野鳥、樹木、草花など、園内のあらゆる“いのち”を感じることができます。動物にも地域の人々にも寄り添い続けてきたこの場所。今回、小倉園長にお話を伺うと、夢見ヶ崎動物公園の優しいまなざしが見えてきました。

語り手:川崎市建設緑政局、夢見ヶ崎動物公園・小倉園長
聞き手:川崎市獣医師会

夢見ヶ崎動物公園の舞台裏

夢見ヶ崎動物公園・対談

ーーまず、夢見ヶ崎動物公園の魅力について教えてください。小倉園長から見て、ここの一番の魅力はどのようなところですか?

夢見ヶ崎動物公園は加瀬山という大きな自然の中にある小さな動物公園なんですが、「生き物のいのちを感じる」ということをひとつのテーマとして掲げています。飼育動物だけではなく、昆虫や野鳥、樹木、草花など色々ないのちを体感できるのが一番の魅力だと思います。入園無料で365日休まずやっているので、気軽にいらっしゃっていただければ嬉しいです。

ーー動物園というより誰でも立ち寄れる公園のような存在ですよね。市民の皆さんからはどのようなお声をいただいていますか?

動物たちを大事にする飼育員の姿勢は、多くの方に評価していただいています。飼育員の日常的な仕事風景を皆さんに見ていただけるように意識はしているので、そこに好感を持っていただけるのはとても嬉しいです。

ーーどうしても外からは見えないバックヤードでの業務もあると思いますが、ぜひ知ってもらいたい仕事のこだわりはありますか?

動物の健康管理にはとても気をつかっています。ペットとは違って簡単に検査や治療ができない動物が多いので、日常生活の健康管理がとても大事です。いつもに比べて少し食欲がないなと思ったら、餌に少し蜂蜜をかけてみたり、切り方を変えてみたり、材料の配分を微調整したり、動物の体調に合わせて食餌管理をしています。

なおかつ、屋外で飼育しているので、動物のコンディションは天候などによって左右されます。少しナイーブになっている子がいたら、あまり人目に触れないような隠れ場所を作ったりもします。動物がストレスなく快適に過ごせるように、本当に細かい配慮をしています。

夢見ヶ崎動物公園・対談

ーー先ほど調理場を拝見しましたが、職員さんが総動員でテキパキ動いていましたね。調理や清掃など、色々なお仕事があると思いますが、具体的にどのようなスケジュールで働いていますか?

まず、早番のスタッフが7時ぐらいに出勤し、動物の体調などを見回ります。その後調理場に移動し、餌の調理を行います。8時半に出勤したスタッフ全員で朝礼を行い、餌をやりにそれぞれの獣舎に散っていきます。その後は、給餌、清掃、動物の観察、必要に応じて治療も行います。ひと通り獣舎の仕事が終わったら、今度は午後の餌の準備。いったん自分たちもお昼休みを挟んで、また各自担当獣舎にて給餌、清掃、収容準備、獣舎整備などの業務を行います。夕方に給餌をして、動物をグラウンドからナイトルームに収容。清掃を行い事務所に戻り、カルテや日誌の作成を行います。

ーー1日中仕事に追われているんですね。大変だと思いますが、やはり動物園の飼育員さんは子どもたちにとって憧れの職業のひとつだと思います。飼育員さんになるには具体的にどうしたらいいのでしょうか?

公立の動物園の場合、会計年度職員の飼育員や獣医として働くには、まず川崎市の試験を受けていただく必要があります。夢見ヶ崎動物公園では今22名ほどのスタッフがいて、その中で動物の飼育に携わっているのは、ベテランの飼育員が4名と会計年度職員が6名、合計10名です。さらに獣医が5名います。

夢見ヶ崎動物公園・対談

ーーなるほど。飼育員さんだけではなく、獣医さんや事務員さんなどもたくさんいらっしゃるわけですね。皆さん各々の仕事があると思いますが、チームワークのために大切にしていることはありますか?

やはり毎日同じ人が出勤するわけではないので、引き継ぎがすごく大事です。毎日必ず朝礼をして、今日誰が何を担当するかを共有しています。さらにSNSのグループがいくつもあって、給餌など飼育管理や治療などについて、細かな引き継ぎが毎日繰り広げられています。もちろんカルテもありますが、365日命を預かっている立場なので、情報共有はなるべく細かくするように心がけています。

ーー考えてみたら命を預かる仕事に休みはありませんね。ちなみに夢見ヶ崎動物公園はお正月も営業しているんですか?

はい。普通に入れますし、周辺に神社仏閣があるのでむしろたくさんのお客さまがいらっしゃいます。ここは地元の文化と一緒に育まれている動物園ですね。

いのちを感じ、思いやりを学ぶ動物公園

夢見ヶ崎動物公園・対談

ーー小倉園長は就任して2年目とのことですが、園長に就任してから取り組んできたことがあれば教えてください。

まず、今まで約50年間先輩方が育ててきた夢見ヶ崎動物公園らしさは、ずっと大事にしていきたいと考えています。

その上で、既存の動物園の枠を越えた色々な取り組みを進めています。昨年には休憩スペースやベビールーム、多目的室などを完備したパークセンターも開設しました。そこでリトミックのワークショップを開いたり、知的障害のある方に絵画教室の先生をやってもらったり。動物園の枠を越えた試みをたくさんやっています。

ーー他にはない夢見ヶ崎動物公園ならではの取り組みですよね。

「地域のコミュニティの場」というニュアンスです。大学がワークショップを開いたり、芝生広場ではベーゴマ大会が行われています。これからの行政は少子高齢化や経済的な課題がたくさんある中で、市民が各々の強みを活かして市民をおもてなしする循環の場を公共施設がご提供するというのも行政運営のスタイルのひとつだと実感しています。

夢見ヶ崎動物公園・対談

ーーなるほど。学校や地域団体と連携して取り組んでいる教育的な試みはありますか?

小学校の生活科や遠足、まち探検など色々な機会でご利用いただいています。スタッフがいのちの授業をしたり、動画を作って見ていただいたりすることもあります。こども文化センターに出張してお話することもありますね。あとは、いのちを体感するという題材で、鹿の角に触ってもらったり、レッサーパンダの糞の匂いを嗅いでもらったり。そういうのってやっぱりワクワクしますし。

保育園のお散歩でよく来てくれる子どもたちは、夢見ヶ崎動物公園の50歳と51歳の誕生日のプレゼントで動物の絵を作成してくれました。他にも保育園の庭で育てたさつまいもを「動物の餌に使ってください」とプレゼントしてくれたことも。それをワタボウシパンシェたちが食べている写真を送ったりして、お互いに連絡を取り合っています。

夢見ヶ崎動物公園・対談

ーー子どもたちに命の大切さを伝えるときに心がけていることがあれば教えてください。

動物は話ができないので、色々想像しなければいけないことがたくさんあると思います。だから、隣のお友だちへの思いやりを学ぶための第一歩としては一番わかりやすい題材かなと思っています。動物はお話ができないから丁寧に観察して、環境を改善し、快適に過ごせるよう配慮する。そして今度はご家族やお友だちの気持ちを想像して、思いやりを行動に移せるようになってもらう。それが私たちの目標です。

ーーたしかに、隣のお友だちも動物もそれぞれが大切な命ですね。私たち獣医師会がお手伝いできることがあればぜひ教えてほしいです。

動物病院さんは最前線で命を守るお仕事をされているので、ぜひ一緒に色々な場所に出張して、動物病院さんの視点も含めて子どもたちにメッセージを伝えていただきたいです。

動物園の社会的意義・心理的意義とは

夢見ヶ崎動物公園・対談

ーー動物園は子どもたちにとって重要な教育の場だということがわかりました。その他にどのような社会的役割がありますか?

動物園には「①種の保存・野生生物の保全 ②環境教育 ③調査・研究 ④レクリエーション」という4つの柱があって、そのミッションを果たしていくのが日本の動物園の使命なんです。その中でやっぱり根本になるのが「種の保存」。種を絶やさないようにするのは世界の共通目標で、特に生物の多様性は今すごく重要視されています。みんなで協力して種を守っていくという組織的な動きの中で、動物園はその実践施設としての役割も大きいですね。

ーー私たち来園者にとって動物園は動物を見て楽しむ場所というイメージが大きいですが、実はその裏では種の保存という大きいミッションを持っているんですね。それでは、夢見ヶ崎動物公園の今後のビジョンを教えてください。

まず大きなビジョンは、いのちを感じる施設として再整備していくことです。生物多様性やアニマルウェルフェアなど、多面的な意味を持つランドマークのような存在にできるように話を進めています。

ただ、そのような大きいビジョンもありますが、市民の方々にご支援いただいて運営している施設なので、園長としては市民の皆さんに少しでも恩返ししたいと思っています。そのためにここの良さをお伝えして、たくさんの方にご来園いただき、何かを持って帰っていただくことが大事だと思っています。

夢見ヶ崎動物公園・対談

ーーそうですね、まず皆さん来てほしいですよね。芝生もあるので、お弁当を持ってきてピクニックとかもできますね。

芝生でのんびりしてください。ここの動物たちのありのままの姿を見て、来園者の方々も「自分もありのままでいいのかも」と感じていただいているような気がします。なんとなく、来園者の方々の後ろ姿を見ていると肩の力が抜けているんですよね。スマホを見ている方も少ないんです。

ーーこの時代にスマホから1、2時間離れる機会は珍しいですよね。

皆さん写真を撮るくらいで、ずっとスマホを見ている方はほとんどいないですね。デジタルデトックスエリアですかね。1、2歳くらいの子は動物を見るというよりダンゴムシをずっと眺めていたりしますが(笑)。

夢見ヶ崎動物公園・対談

ーーそれもいいですね。今後も素晴らしい施設づくりを期待しています。

はい。先ほども言った通り、夢見ヶ崎動物公園はいのちを感じる施設としての再整備を計画していて、今後パブリックコメントを募集すると思います。皆さんのご意見を反映した施設にしていきたいので、ぜひご意見いただければ幸いです。また、クラウドファンディングも実施する予定ですので、ご支援をいただければ嬉しいです。

ーー今日は貴重なお話をありがとうございました。

夢見ヶ崎動物公園・対談
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