近年、国内で深刻な健康被害をもたらしている人獣共通感染症のひとつが「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」です。これはウイルス性の感染症で、主にマダニが媒介しますが、犬や猫といった身近なペットを介して人に感染する可能性があることが明らかになっています。
SFTSは一見遠い地域の問題のように思われがちですが、神奈川県内でもSFTSウイルスを保有するマダニが確認されており、川崎市を含む都市部でも決して無関係ではありません。このコラムでは、飼い主の皆様に向けて、SFTSの基礎知識とともに、ペットを通じた感染リスクと予防策について詳しく解説します。

川崎市獣医師会
本記事は、公益社団法人川崎市獣医師会に所属する獣医師の専門的な監修のもと執筆しています。
SFTSとは?
SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)は、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類されるSFTSウイルス(SFTSV)による感染症です。感染すると以下のような症状が現れ、重症化する例も少なくありません。
– 発熱、全身倦怠感、下痢、嘔吐
– 白血球や血小板の減少
– 肝機能異常
– 意識障害や出血傾向(重症例)
致死率は10~30%と非常に高く、特に高齢者や基礎疾患のある方では重症化しやすいとされています。現在、特効薬やワクチンはなく、早期発見と支持療法が中心となります。
神奈川県でもウイルスが確認されています

SFTSは当初、西日本での発症が多く報告されていましたが、最近では関東地方でもウイルス保有マダニの存在が確認されており、神奈川県内でも感染リスクがあることが明らかになっています。都市部だからといって油断は禁物です。
特に公園や河川敷、雑木林など、マダニの生息環境が意外と身近に存在している点にも注意が必要です。草むらの中を散歩する犬や、屋外に出る猫にとっては、マダニとの接触は決して珍しいことではありません。
ペットから人への感染リスク
マダニに咬まれることで直接感染するのが基本経路ですが、近年は犬や猫を介した“二次感染”の事例が報告され、大きな関心を集めています。
【実際の感染事例】
- 2017年
- 日本で初めて、SFTSウイルスに感染した猫から獣医師に感染したと考えられる事例が報告
- 2020年
- SFTSに感染した犬の看病をしていた飼い主が、感染して発症
これらは単なる偶然ではなく、動物の体液・血液・排泄物との濃厚な接触によって、SFTSVが人へ感染した可能性が高いと考えられています。
特に注意すべき:野良猫・地域猫との接触
感染リスクが高いとされているのが、野良猫や地域猫です。これらの猫たちは屋外での生活をしており、マダニに咬まれる確率が非常に高いです。
実際に、弱った野良猫を素手で保護した飼い主がSFTSを発症したケースもあります。感染した猫は、発熱、元気消失、出血、下痢、食欲不振、皮下出血などの症状を示し、非常に短期間で死亡することもあります。
動物が感染していても無症状の場合があるため、見た目での判断はできません。
屋外に出る飼い猫にも要注意
完全室内飼いではない猫は、次のような理由で感染リスクが高まります:
- 屋外でマダニに咬まれる
- 地域猫や野良猫と接触する
- ウイルスを体につけたまま帰宅し、室内で飼い主と濃厚接触する
自由に出入りする猫は、知らないうちに「ウイルスの運び手」になっている可能性があるのです。
飼い主としてできる予防策
以下のような対策を徹底することで、SFTSのリスクを最小限に抑えることが可能です。
ペットのマダニ対策
- 動物病院で処方されるマダニ予防薬(スポットタイプや内服薬)を定期的に使用
- 散歩後の被毛チェック
- 完全室内飼育を検討(特に猫)
飼い主自身の対策
- 野良猫・地域猫にはむやみに接触しない
- 弱っている動物に素手で触れない
- 草むらや山林では長袖・長ズボンを着用し、マダニの付着を防ぐ
- ペットの体液・血液に触れた場合は、すぐに手洗い・消毒
最後に―大切な命を守るために
SFTSは、まさか自分が、まさか自分のペットが――そんな不意を突くような形で発症する可能性があります。しかし、知識を持ち、日常的な注意を怠らなければ、防ぐことができる感染症でもあります。
「うちの子は大丈夫」と思わずに、今一度生活環境を見直してみてください。
そして、万が一の異変を感じたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
本コラムは、川崎市獣医師会の会員病院である池田動物病院より提供された情報をもとに執筆しています。
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