家庭でよく使う「玉ねぎ」や「ネギ」「ニラ」「ニンニク」などの野菜は、犬や猫にとって非常に危険な食材です。特に玉ねぎは、少量の摂取でも命に関わる中毒を引き起こす可能性があり、獣医師の間でも「誤食に注意が必要な代表例」として警鐘が鳴らされています。
今回は、飼い主の皆さまに向けて、玉ねぎ中毒のメカニズムや症状、対処法、そして日常でできる予防策を詳しくお伝えします。

川崎市獣医師会
本記事は、公益社団法人川崎市獣医師会に所属する獣医師の専門的な監修のもと執筆しています。
なぜ玉ねぎは危険なの?
玉ねぎをはじめとするネギ類には、「有機チオ硫酸化合物」と呼ばれる成分が含まれています。この成分は、犬や猫の赤血球に含まれる“ヘモグロビン”を酸化させ、破壊(溶血)してしまう作用があります。その結果、「溶血性貧血」という重篤な状態を引き起こすことがあるのです。溶血が進むと、酸素を体に運ぶ赤血球が不足し、呼吸困難・虚脱・臓器障害を招くこともあります。
人間では分解できる量でも、犬や猫では分解能力が大きく異なるため、わずかな量でも危険が及ぶという点に注意が必要です。
加熱しても安心ではありません
「少しだけだし、火を通せば大丈夫でしょう?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、有毒成分は加熱しても完全には分解されません。
調理済みの玉ねぎ入りハンバーグ、肉じゃが、カレーなどは、毒性が残っている可能性が高く、玉ねぎ本体だけでなく、煮汁やスープにも成分が溶け出していることがあるため注意が必要です。また、人間の味付け自体(塩分や調味料)もペットの健康には好ましくありません。
どれくらいで中毒を起こす?
玉ねぎ中毒の厄介な点は、「この量を超えると中毒になる」という明確な基準がないことです。一般的に体重1kgあたり5〜10g程度が中毒の目安とも言われますが、感受性には個体差が大きく、ごく少量でも致命的になる場合があります。
「ほんの一口だから」「落ちた玉ねぎをなめただけだから」などと軽く見てはいけません。わずかな摂取でも、すぐに動物病院に連絡し、診察を受ける必要があります。
中毒の症状は?
誤食から数時間〜数日後に発症するケースが多く、次のような症状が見られることがあります。
よくみられる症状
- ぐったりして元気がない
- 食欲がなくなる
- 嘔吐や下痢
- 呼吸が荒くなる・息が速くなる
- 歯ぐきや舌が白くなる(貧血のサイン)
- 尿の色が赤黒くなる(血色素尿)
- 脈が速くなる、または遅くなる
- ふらつき、意識の低下
※特に猫は犬よりも玉ねぎ成分に敏感で、少量でも重篤化しやすい傾向があります。
誤食してしまった時は
万が一、玉ねぎを含む食品を誤って食べてしまったことに気づいたら、すぐに動物病院に連絡してください。「まだ症状が出ていないから様子を見よう」という判断は非常に危険です。早期の処置によって、重症化を防げる可能性があります。
動物病院へ伝えるべき情報
1.食べたものの名前・調理状態(生、加熱など)
2.摂取量(できる限り正確に)
3.食べた時間
4.ペットの体重や既往歴
夜間や休日の緊急時は「川崎市獣医師会 夜間動物病院」へ

診療時間外や休日に玉ねぎの誤食が発覚した場合は、迷わず川崎市獣医師会が運営する「夜間動物病院」へご連絡・ご相談ください。経験豊富な獣医師が電話でのアドバイスや緊急診療を行います。
川崎市獣医師会 夜間動物病院
受付時間:午後8時~深夜0時(最終受付 23時30分)
年中無休
飼い主としてできる予防と習慣
玉ねぎ中毒は、完全に防ぐことができる「予防可能な事故」です。以下の対策を、ぜひご家庭で取り入れてください。
- 玉ねぎやネギ類の入った料理は絶対に与えない
- 玉ねぎ入りの調理済み食品(惣菜、レトルト、冷凍食品)にも注意
- ゴミ箱はふた付きのものを使い、調理くずや食べ残しを漁られないように
- 子どもや高齢者にも「犬・猫にネギ類はNG」と伝える
- ネギ類を使った食器や調理器具を舐めさせない
最後に
身近な食材が、犬や猫にとって「命の危険」となる可能性を持っています。私たち川崎市獣医師会では、ペットとの安心・安全な暮らしのために、日頃の注意と備えが何よりも大切だと考えています。「うちの子に限って大丈夫」はありません。正しい知識で、大切な家族の健康を守っていきましょう。