愛犬・愛猫の健康を守るために―歯石除去の重要性と正しいケア

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川崎市獣医師会

川崎市獣医師会

本記事は、公益社団法人川崎市獣医師会に所属する獣医師の専門的な監修のもと執筆しています。

目次

歯石は“病気の温床”です

「ちょっと口が臭うけど、年齢のせいかな」「歯が黄色くなっているけど、ごはんも食べているし大丈夫」―そんなふうに見過ごされがちなのが、歯石の蓄積です。

犬や猫は、人間に比べて口腔内のpHが高く、歯垢が石灰化して歯石になるスピードが非常に速いことが知られています。歯石がたまると、その表面にさらに細菌が付着しやすくなり、歯肉炎から歯周病へと進行していきます。

歯周病は、歯を支える組織(歯根膜や歯槽骨)を破壊するだけでなく、細菌が血流に乗って全身に影響を及ぼすこともあります。心臓、腎臓、肝臓などに障害を引き起こす例も報告されており、「口の病気」として片付けることはできません。

無麻酔での歯石除去は、絶対におすすめできません

「麻酔は心配だから、無麻酔で歯石を取ってもらえるところを探している」というご相談を受けることがあります。ですが、動物医療の立場からは、無麻酔での歯石除去は強く反対しています。

無麻酔での処置は、表面の見えている部分の歯石を“削り取る”だけで、歯と歯ぐきの隙間に入り込んだ歯石や細菌を完全に除去することは不可能です。また、動物が動かないよう強く押さえつけて処置を行うことも多く、歯や歯ぐきを傷つけたり、精神的なストレスを与えたりする恐れがあります。

さらに、歯石除去後の歯の表面にできる微細な傷から、再び歯石が付きやすくなるケースもあります。こうした行為は医療行為であり、本来は獣医師が全身麻酔下で適切な判断と技術のもとに行うものです。健康を守るつもりで受けたケアが、かえって動物の体に害を及ぼすこともあるのです。

全身麻酔による歯石除去は、安全性と効果の両立を目指して行われます

麻酔による歯石除去は安全

「麻酔が怖い」というお気持ちはよく分かります。しかし、現代の動物医療における麻酔管理は非常に進歩しており、年齢や持病をふまえた事前検査を十分に行ったうえで、安全に麻酔をかけるための工夫がなされています。

麻酔下であれば、動物が痛みや恐怖を感じることなく、歯と歯ぐきの間の歯石までしっかりと除去できるため、再発予防や治療の効果も大きく異なります。適切な麻酔管理と術後のケアを行えば、動物にとってよりストレスが少なく、安全な処置が可能となります。

健康維持のために

歯周病は、単なる口の病気ではありません。慢性の炎症が全身に及ぼす影響は計り知れず、近年では歯周病が心疾患や腎臓病のリスクを高めることが明らかになってきています。特に高齢の犬猫では、口腔内の状態が悪化することで食欲が低下し、体力の低下や持病の悪化を引き起こすこともあります。

つまり、歯石を放置することは、「老化を早める」「寿命を縮める」ことにもつながりかねないのです。歯石除去は、見た目をきれいにするだけではなく、長期的な健康と生活の質を守るための大切な医療行為です。

日々のメンテナンスが、何よりも大切です

歯石の除去は、進行した歯周病を防ぐうえで非常に重要ですが、それと同じくらい大切なのが、日々の口腔ケアです。歯石は、日々の食事や唾液中の成分から作られる歯垢が数日で硬化してできるため、「歯石がつく前に歯垢を取り除くこと」が最も効果的な予防策となります。

もっとも推奨されるのは、毎日の歯みがきです。最初は嫌がる子も多いですが、子犬や子猫のころから少しずつ慣らしていくことで、自然に受け入れてくれるようになります。歯ブラシに慣れていない場合は、ガーゼや指サック型の歯みがきシートを使って、歯や歯ぐきをやさしくマッサージすることから始めてもよいでしょう。

また、市販のデンタルガムやデンタルトイ、口腔ケア用サプリメントを活用するのも一つの手です。ただし、これらはあくまでも補助的な手段であり、毎日の歯みがきに代わるものではないことを理解しておくことが重要です。

定期的な動物病院での歯科チェックも欠かせません。目に見える歯石や口臭だけでなく、歯ぐきの腫れや歯のぐらつきなど、飼い主が見つけにくいサインを早期に発見するためには、プロの目が必要です。半年から1年に一度は、かかりつけの動物病院で歯科検診を受けるようにしましょう。

わんちゃん・ねこちゃんにとっても、私たち人間と同様に、「歯とお口の健康」は、健康寿命を延ばす大切な要素です。毎日のちょっとしたケアが、将来の大きな病気を防ぐことにつながります。歯石除去や口腔ケアについてのご相談は、ぜひお近くの会員病院までお寄せください。

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